男の料理
2006年 04月 05日
以上は、使うことのなかった招待状の文言である。
単身赴任時代に、疲れ気味の単身赴任者の同僚2人と飲み友達1人を呼び、拙宅でスッポンを食う会を開いた。
そのときにつくった招待状の品書は以下のようなもの。招待の文言は省略。
品書
1 前菜 合鴨胸肉簡單薫製 バルサミコソース
1 鼈活血 清酒割
1 造り 鼈肝胆嚢心臓
1 焼物 穴子白焼
1 鼈鍋 鹿児島産雌雄
1 煮物 冬瓜黒豚角煮炊合
1 煮物 穴子柳川風
1 御飯 鼈雑炊
1 果物 無花果コンポート
1 御土産 鼈スープ
酒
自家製梅酒
Ch.Gruaud-Larose 1989
Ch.Lagrange 1988
純米酒浜千鳥
Roger Groult 8
電氣ブラン
老酒 紹興酒
主な食材は築地場内市場で調達。スッポンは2匹。卵入りも欲しかったので、オスとメスにした。鍋は京都の楽焼き。
アナゴは活け締めしてまだ身がピクピクしているもので、これを開き、七輪で備長炭を熾し、串に刺して白焼きにした。
柳川にしたのは前にやわらか煮にして冷凍しておいたものを使用。これは私の常備菜。
イチジクのコンポートはフランス料理のデザート。
酒は特に調達したものではないが、我ながらいろいろあったものだと思う。
料理は全部自分でしたのである。さすがに少し材料費がかかったので、みんなから3000円ずつ協力してもらった。
思えば単身赴任中は料理の修業をしていたようなもの。それもぜんぶ本か雑誌を見てつくっていた。
料理をするのは週末に集中したが、それは作りおきをしておいて、平日には温めるだけですぐ食事ができるようにということだったのである。
生きるということは、食べるということだと心得ている。自分でつくった肴でイッパイやれるのが愉しいのである。酒をのめない人はその点で料理のハードルが高くなるかもしれない。
日本料理の基本はダシであるから、美味しさはダシの善し悪しにかかっている。そのために真昆布の1等品を無理して買い、カツオ節もできるだけ自分で削った。単身生活だからできたのである。
スッポンを食う会のあと、別の料理でまた近いうちにやろうということで、今度は気の利いた招待状をつくろうと、本居宣長風に凝ってみた。それが冒頭の文言である。しかしこれで招待状をつくることなく、単身赴任は終了した。
思えば、料理に必死だったときもあったのである。我ながらモノズキだと思う。
定年退職を機に、料理教室に通う男性が増えているという。楽しみは年齢と反比例して少なくなっていくから、料理に興味を持って食べたいものを自分でつくれるようになれば、余生の愉しみは5割増しになろうというものだ。何よりも、万が一の時のみじめな食生活から解放されるだろう。
「小成に安んずるな」という声もあるが、こうしたことはそれとは別だと考えている。