真空調理法


今朝は7時近くに起床。寒くなったのと朝がまだ暗いせいか、寝坊することが多くなった。
ストレッチングがいつもの時間より遅くなり、それをしながらテレビを見ていたらどこもつまらないものばかりなので、NHKのハイビジョンに切り変えたら「アインシュタインの眼」をやっていた。今日のテーマは「美食の最先端~分子料理法~」である。この番組はめったに見ないのだが、このテーマは興味深いので、思わず見入ってしまった。

「分子料理法」はフランスの科学者とミシュラン三つ星レストランのシェフとで共同開発された新料理法で、液体窒素などを使って瞬時に冷凍したさまざまな食材を使って、今までにない食感や味覚を開発したものだという。
オリーブオイルを超低温で粉状にしてトッピングにしたり、液体窒素で果汁をシャーベットにしたりしている新奇な映像に目を見張ったが、これは到底家庭で真似のできるようなものではない。

この番組のなかで、ひとつだけ常識を覆すものとしてステーキの焼き方が紹介されていた。
ステーキを焼くには、表面に焦げ目をつけて肉汁を閉じこめるという常識がある。ところがこれが全くのウソだという。映像をよく見ると、肉の線維が高熱で縮まり、できた隙間から肉汁がどんどん流れ出て、それが蒸発していく様がよく分かる。料理の常識にはウソが多いということが、ここでも証明されている。

次に紹介されたのが、もう普通になってきた「真空調理法」というもの。
合鴨胸肉のロースづくりの過程を、普通のオーブンと真空パックしてからスチームオーブンで処理したものを比べるというものであった。
最初はどちらもフライパンで鴨肉の表面に焼き目をつける。一般的調理法ではそれをフライパンごと200℃のオーブンに入れて中まで加熱していく。真空調理法では、冷ました鴨肉を真空パックにし、スチームオーブンで加熱する。その加熱温度は58℃に設定していた。
一般的調理法では、肉の内部温度にムラがあり、均一に火が通らないばかりか、肉が縮んでしまっている。かたや真空調理法では、全体が均一な温度になり、肉の縮みがほとんどない。

実は私もこの真空調理法を知ってから、いろいろなものに応用してきた。
そもそも食材を真空パックして冷凍保存することを知ったのは丸元淑生『続新家庭料理』(中央公論社1989年刊)からである。
家庭用シーラー(真空密封包装器)を取り寄せてもらって購入し、仙台から東京に出張した帰りに合羽橋の食品包装用品店に寄り、専用ポリ袋とエージレス(脱酸素剤)を買ってきた。家庭用のものは業務用とちがってパワーが弱く、完全に真空にすることはできない。
私の単身赴任生活で、あまりおカネをかけずに割りとリッチな食生活を維持することができたのは、丸元氏のおかげであると言っても過言でない。

「真空調理法」はフランスで1979年に開発されている。『専門料理』に「和食の真空調理法入門」が特集されたのが平成7年。ここで、先日ミシュラン二つ星に格付けされた「菊乃井」の村田吉弘氏が真空調理法でつくる伝統の京料理「鴨ロース」が紹介された。彼はスチームコンベクションオーブンの温度をやはり58℃、加熱時間を1時間に設定している。研究熱心な彼は、その調理法が開発されて間もなく、まだあまり日本で知られていないうちから資料を集め、友人に翻訳してもらって勉強したのである。
私はこれを真似て鴨ロースをつくり、甘辛いタレに漬けたり軽く燻したりしておせち料理の一品などにしてきた。ウチにはスチームオーブンはないから温湯で加熱するのであるが、お湯の温度を55~60℃の範囲内で管理するのは意外に難しい。ずっと張り付いていることはできないからだ。70℃を超えると肉汁が出てくるから、こうなると失敗である。

さて、くだんの番組の中で、ゲストが2種類の調理法によるミディアムレアの鴨ロースを試食した。
ゲストの天野祐吉氏は、私は普通にローストした鴨ロースの方がおいしく感じられるとのたもうた。この味に慣れているということか、とも言われた。科学的には真空調理法の方が柔らかくてジューシーでおいしいはずなのだが、どちらが旨いかということになると、自分の過去の食生活やその他の雑多な要因が影響してくるので、こっちの方が旨いはずだと決めつけることはできないということなのである。

このごろ「ミシュラン東京」格付けへの批判が目立っている。味覚の世界は一筋縄ではいかず、食に対する価値観も多様である。自分がおいしいと思えば、その料理に満足したことになる。高級なものを志向せずとも安い食材でおいしい料理にすることは可能なので、自分が食べるものを自分で料理できるということは、つくづく有り難いことだと思うのである。

だいぶ古くなった家庭用真空密封包装器。このごろはまったく使っていない。最近はもっぱらストローで空気を抜いている。
真空調理法_f0086944_16205443.jpg

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by 130atm | 2007-12-05 16:21 | その他 | Comments(0)

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by 一拙
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